2014.03.08 Saturday
「じゃ、まずは聖さんの車を裏の車庫に移動しますか」
ふむふむ。来客用の駐車場に車があるのはおかしいもんね。
ということで、二人でぶーぶーのところに行った。作務衣にスニーカーってなんだかバランス取れなくて変な感じだったけど、草履での運転は慣れていないと危ないからと靴を勧められたのだ。志井さんは私が風呂に入っているあいだに、ふもとに降りていったとのことだった。
運転席に滑り込んでキーをいれてエンジンを掛け……あれ?
あれ? あれ? あれ??
ぶーぶーはウンともスンとも言わない。
「どうしました?」
久世さんが運転席をのぞき込む。
「いや……あの……エンジンが……」
「もしかして、かからない?」
私はなすすべなくうんうん、と首を立てにふった。
「あら。……ちょっと、代わっていただけます?」
久世さんは、私と本人を交互に指さして言った。
私が車を降りると、久世さんがするりと流れるような動作で運転席に座る。背もたれにはよりかからず浅く座った姿勢のまま、エンジンを掛ける動作をしたが、ぶーぶーは「ひん」とも「ひゅん」ともつかないと情けない鳴き声を小さく上げただけで、やっぱり沈黙している。
「仕方ない。押しましょう」
久世さんは躊躇なく立ち上がった。首に掛かっている袈裟を外して簡単にたたみ、助手席に投げ入れた。