2014.03.02 Sunday
そちらに向かうまえに、久世さんが何を見ていたのだろうとそちらに視線をやってみた。
視線の先には、手入れはされているみたいだけど下草が生え放題の空き地っぽい空間と、その奥に立つ掘っ立て小屋みたいな建物。そこにこちんまりと収まっている軽自動車が二台。それも白と朱色。小屋のうしろは青々とした竹の壁。それはぐるっと左側に伸びていて、建物の向こうに消え、その果ては測ことができなかった。たぶんこのお寺は大きな竹林を背にしているんだろう。
「聖さん?」
久世さんの声がする。見ると引き戸が開かれてて、その中から久世さんの上体だけが出ていた。
「はぁい。すぐ行きます」
私は急ぎ足で呼ばれたほうに向かう。
「東京のかたからすると、びっくりするほど田舎でしょう?」
私が追いつくやいなや、久世さんはくつくつと笑いながら言った。
「いえいえ。前に言った、家がお寺の後輩宅もこんな感じですよ。ほんとにここは都内なのかなって感じです」
「そうですか」
「ええ、H市にあるんですがね」
「ほう、H市ですか。私の知人宅のお寺もH市にあるんです」
「あら、それは奇遇。あんがい、同じお寺だったりして」
「どうでしょうねぇ。H市も寺院はたくさんありますし、宗派もいろいろありますからね」
「そりゃそーだ」