2010.10.27 Wednesday
私が呆然と立ちすくんでいると、さらに女性は言葉を重ねた。
「こちらに来ませんか? 湯船の方が視界がクリアなんです。今のままではお互いに姿が見えないでしょう?」
なにかがとても楽しくてしかたがない、といった雰囲気の声だった。どうしていいか分からなくなった私は、それに従って湯船に近づいた。言葉の調子はやさしいのに、なんとなく従ってしまう。そんな調子を声だった。
湯船に近づくと、果たしてそこはスキンヘッド(なんだろうか?)の言ったとおり、湯気がほとんどなくて『視界良好、ヨーソロー』な状態だった。私は湯船の中の人影を見る。そこにいたのは、ご婦人――間違いなく女性だった。
そこそこご年配、有り体に言えば中年の。しかし頭髪が金色で、極端に短い。
……。
ベリーショートの女性はいくらでも見たことがあるけど、目の前の人まで短い女性の頭髪は見たことがない。微妙に違うんだけど、やや長めの坊主頭。まるでバリカンで刈ったんですか? と訊きたくなるほどの短さ。湯気で視界が悪かったってことを差し引いても、たぶん後ろからや遠目で見たら男に見えるんじゃないだろうか? そんな感じ。
湯船の中の中年女性は、たぶん間抜けな顔で目を白黒させているだろう私を見上げて、ニコニコと笑って言った。
「Hi, Good Morning. How are You?」
……え!?
あまりに流暢(りゅうちょう)で鮮明なロイヤル・イングリッシュ系の発音だった。金髪頭は置いといて、どう見ても日本人な顔立ちなのに、一瞬あちらの人かなと錯覚しそうになって、相手をまじまじと見てしまった。しかし相手は、私の沈黙を別の意味にとらえたらしかった。
「Bonjour...? ……Guten Morgen...? ……Хорошее утро
...?」
「だっ……大丈夫です! 日本人ですからっっ!!」
…じゃないと、いつまでもお終わんねっす。
そして怒濤の繁忙期に突入したら、また大停滞すると思われるのです(とほほ…。
真打ち登場! …なのに、なかなか名前が出せない罠~~(涙。