2019.01.17 Thursday
「艦隊進路四時から五時の方向より、艦娘の反応。複数アリ……イエ、多数とのことです」
『多数?』
司令官と副司令の声がきれいにハモる。
「さきほどの大波で、傾斜復元できずに転覆した艦がいるのではないでしょうか」
鳳翔が冷静に推測を述べると、カワチが「なるほど」とうなずいて、ヒナセの方を向いた。
「どうします? 司令官」
「どうするもこうするも、こっちに流れてきたのは助けるしかないでしょ。ああ……人も流れてくるかもしれないねぇ」
ヒナセの声はため息交じりだった。
「ですな。波がまだ荒いので、救命ボートを出すのは無理でしょうから……」
「だねぇ。……『鳳翔』以外装縮して回収に向かわせよう。艦娘形態のほうが小回り効くでしょ。できるだけ助けたくはあるけど二次災害は避けたいな。単艦での作業はNGで。とにかく無理はしないこと」
「了解しました」
カワチ副司令の朗とした声が艦橋に響く。
「全艦に発令。艦隊進路四時から五時の方向付近から、間もなく多数の艦娘が流されて来ると思われる。『鳳翔』以外の艦は全員艤装縮納。重巡あるいは軽巡と駆逐艦の二隻ひと組で、漂流中の人および艦娘の救助・回収にあたれ。収容は『鳳翔』にて行う。なお二次災害に十分注意するように。天候が悪すぎる。少しでも無理だと思ったら、救助・回収は即時中止するように。くり返す。全艦に発令。艦隊進路―――」
艦橋はふたたび、連絡妖精さんたちが発するざわめきに包まれた。
(そうは言ってもたぶん流れてるのを見つけちゃったら、みんな助けずにはいられないんだろうなぁ)
内心でため息を漏らしながら、ヒナセが自分の斜め前で操艦している鳳翔に目をやると、鳳翔も同じようにこちらを見ていた。
「提督。この天候だと飛行甲板は危険なので、格納庫を収容場所にしたいと思いますが、いかがでしょうか」
「あ……ああ、はい。鳳翔さんのお好きなように」
今実艦形態だからといって、鳳翔が自分自身の運用の仕方についていちいち艦隊司令官に指示を仰ぐ必要はない。なのでヒナセの返事は至極当然のことなのだが、言い方が素っ気なさすぎたか、鳳翔の表情がスッと真顔になった。それに気が付いたカワチが肘で、ヒナセを小突く。
「あんだよ」
「すみません。今足を取られました」
「狭いんだから、気をつけてよね」
やれやれ困ったものだな、とカワチは心の中で呟いて、鳳翔にほんの少しの憐憫が混じった視線を投げた。鳳翔は表情を消したまま、自分の妖精さんたちに指示を出していた。
――――。
艦隊幹部たちが当座のこと以外に気を回せる程度の余裕を持っていられたのはこの時点くらいまでだった。
この後、漂流艦娘たちが次々と回収されてきて、旗艦『鳳翔』は、文字通り煮えたぎった地獄の釜のような状況になったのである。
『多数?』
司令官と副司令の声がきれいにハモる。
「さきほどの大波で、傾斜復元できずに転覆した艦がいるのではないでしょうか」
鳳翔が冷静に推測を述べると、カワチが「なるほど」とうなずいて、ヒナセの方を向いた。
「どうします? 司令官」
「どうするもこうするも、こっちに流れてきたのは助けるしかないでしょ。ああ……人も流れてくるかもしれないねぇ」
ヒナセの声はため息交じりだった。
「ですな。波がまだ荒いので、救命ボートを出すのは無理でしょうから……」
「だねぇ。……『鳳翔』以外装縮して回収に向かわせよう。艦娘形態のほうが小回り効くでしょ。できるだけ助けたくはあるけど二次災害は避けたいな。単艦での作業はNGで。とにかく無理はしないこと」
「了解しました」
カワチ副司令の朗とした声が艦橋に響く。
「全艦に発令。艦隊進路四時から五時の方向付近から、間もなく多数の艦娘が流されて来ると思われる。『鳳翔』以外の艦は全員艤装縮納。重巡あるいは軽巡と駆逐艦の二隻ひと組で、漂流中の人および艦娘の救助・回収にあたれ。収容は『鳳翔』にて行う。なお二次災害に十分注意するように。天候が悪すぎる。少しでも無理だと思ったら、救助・回収は即時中止するように。くり返す。全艦に発令。艦隊進路―――」
艦橋はふたたび、連絡妖精さんたちが発するざわめきに包まれた。
(そうは言ってもたぶん流れてるのを見つけちゃったら、みんな助けずにはいられないんだろうなぁ)
内心でため息を漏らしながら、ヒナセが自分の斜め前で操艦している鳳翔に目をやると、鳳翔も同じようにこちらを見ていた。
「提督。この天候だと飛行甲板は危険なので、格納庫を収容場所にしたいと思いますが、いかがでしょうか」
「あ……ああ、はい。鳳翔さんのお好きなように」
今実艦形態だからといって、鳳翔が自分自身の運用の仕方についていちいち艦隊司令官に指示を仰ぐ必要はない。なのでヒナセの返事は至極当然のことなのだが、言い方が素っ気なさすぎたか、鳳翔の表情がスッと真顔になった。それに気が付いたカワチが肘で、ヒナセを小突く。
「あんだよ」
「すみません。今足を取られました」
「狭いんだから、気をつけてよね」
やれやれ困ったものだな、とカワチは心の中で呟いて、鳳翔にほんの少しの憐憫が混じった視線を投げた。鳳翔は表情を消したまま、自分の妖精さんたちに指示を出していた。
――――。
艦隊幹部たちが当座のこと以外に気を回せる程度の余裕を持っていられたのはこの時点くらいまでだった。
この後、漂流艦娘たちが次々と回収されてきて、旗艦『鳳翔』は、文字通り煮えたぎった地獄の釜のような状況になったのである。